バイオリンの経済学 その2 楽器が買われるとき、売られるとき
ちょっと前に、楽器が作られた段階での価格や、お金の話をしましたが、今回は消費者である我々が楽器を手に入れたり、また下取りに出してステップアップして新しい楽器に買い替えたりする時の経済性の話を少し。
前回記事:バイオリンの経済学 その1:バイオリンが生まれるとき
https://kamisamacool.hatenablog.com/entry/2020/04/14/080904
ネットを見ると、バイオリンは値段が確実に上がるから投資として考えられるとする記事もあります。でもこれには結構注意が必要なのではないかと考えています。
確かにストラドは年率7%の確実な投資という話もあります。
でも、だからと言って自分が買うバイオリンが同じく投資になるとは言えないのではないでしょうか?
一つの理由として考えられるのはバイオリンの売価と仕入れ価格の差です。
当然ながら我々がバイオリンを買う価格と、買い替えなどで楽器を下取りとして売れる値段には違いがあります。そしてそれが結構大きな差になることが多いです。
もし、仕入れ原価(=下取り価格)が40%だとすると、バイオリンの実際の市場価値(再度お客さんに売れる値段)が2.5倍にならないと買った時の値段では下取ってもらえないと言うことになります。仕入れ原価が50%でも2倍。もし25%なら4倍です。
この仕入れの原価率が何%かは私自身全くわかりませんが、今回は50%だと数字がわかりにくくなるので、40%として仮に話を進めてみます。
楽器が買取りされる価格が40%だとすると、買い替え時の下取りが非常に一般的な自動車の場合だと、だいたい5−7年くらい乗った時の下取り価格と同じくらいになります。
5−7年乗った中古の車って、それなりに故障したりする結構なボロいって感じの車になります。でも自動車の場合は新車を何年か使うと相当痛むのは当たり前で、感覚的に何年か車に乗って40%程度の値段で下取ってもらえれば納得感はあるかと思います。
しかしバイオリンは、新作を買わなければ、オールドにせよモダンにせよ、そもそもが中古です。そうした中古で買ったものが数年後外見上は何の変化もなく、値段だけが新車から中古車並みに下がった価格になるとすると、自動車と同じような納得感とはならないでしょう。
逆に、下取り価格が40%とすると、バイオリンの値段がバブルの時のマンションみたいに値段が倍以上になって、初めて楽器を売った時の含み益が生まれると言うことになります。
しかし自分が保有している間に値段が確実に倍になる楽器は相当限られて当然という話になります。
そもそも車だと、誰も新車買って、中古車で売る時に儲けようとしません。それができるのは、一部のスーパーカーだけです。
知り合いの歯医者さんのところには、中古フェラーリでの経費による節税の話も来るみたいですし、新車供給が常に不十分で新車の納入に1年以上待たされるため中古車価格が新車価格を上回ることもしばしばです。ある知り合いは、確実に値上がるのでフェラーリ買うのは貯金って言ってました。なので全くありえない話ではないでしょう。
フェラーリと同じく、ストラドやガルネリを入手すれば、確実に値段は上がるでしょう。
またイタリアの楽器は、今人気ですから欲しいと言う人は多い、つまり需要があるので値段はこれまで上昇傾向にあったことは事実です。実際過去数十年に渡り優秀な作家のイタリアの新作の値段は上がってきました。
しかし、それは楽器が優秀であったからと言うよりは、欲しいと思った人間の数が多いから、需要と供給のバランスで値段が上がって来たとも言えます。楽器屋さんなどでも、イタリアの楽器は音だけの値段に見合うかは別問題と聞くことは多いです。
そうなると、楽器を投資として考え、これから2倍以上価値上がらないと含み益が出ない状況は、もし短期的な投資であれば高利回り狙いの勇気のいる投資ですし、もし長期的な投資だと我慢のいる投資だと気付かされます。
もちろん新作作家のバイオリンの値段は、例えばその方がトリエンナーレなどのコンクールで優勝すれば値段は数倍に跳ね上がります。チェコのシューピドレン、クレモナのヨハンセンの値段もうなぎのぼりです。でも誰がコンクールで優勝するなんか本当に神のみぞ知る世界です。
でもそう言う優勝ご祝儀のような値上がりをバイオリンに期待するのは、もはや投資というより投機に近い性格のものと考えるでしょう。
さて、、、、、
今回は仕入れ価格が40%として話を進めました。
とすると、買ったときにお支払いした残りの60%は、楽器店に対しお支払いされるお金になります。再度言いますが、私は楽器商ではないので正確な数字は知りませんが、この仕入れ値はネットでよく物議を醸しています。
しかし、私は楽器に払うお金を投資と思わなければ全くいい話で、むしろこれは楽器の使用料と考えレバ良いのかと思っています。
ある楽器店から楽器を買うのは、その楽器店が良い楽器を選んでいるからですし、これから手入れをお願いできる信頼があるだと考えているからです。その信頼で楽しく演奏を楽しめます。そのために必要なお金です。
そう考えると、買いたい楽器価格の60%は使用量として払っても良いと思えるバイオリンと出会えた時が、楽器の買い時。
さらに、もし100万円の楽器を買った場合、60万円が使用量で、この楽器を10年使ったら年6万円、月5000円のが月額です。それならまースマホ代よりは安いわけで、もしこのレベルのレンタル料金なら、アマチュアでも他に趣味もなく普段からがっつり弾く人であればリーズナブルと言えるかもしれません。
最後に、オークションの話を少しすると、オークションでは売りたい人間が下取りに近い価格でバイオリンを売っているとすると、この60%のコストが下がる余地があると言うことになります。昨今、ヤフオクで仕入れている楽器屋さんもちらほら見受けられますので、ある意味オークションでは仕入れ値に近寄ったレベルのお金で売買されてとも考えられるからです。これがネットオークションの魅力でしょう。
でももちろん高くふっかけて売っている人もいかねないので、自分で商品の見極めは必要です。当然リスクもあります。試奏は基本難しいですし、写真だけで物の良否を見極める必要があります。
なので、目的をしっかりもって、リスクをとる覚悟があって初めて、60%分安くすることが可能と言うことか思います。
幸いなことに、私がすでにご報告したネットで入手した優れた弓や、バイオリンはそうやって安く手に入れることができました。
でもそれは、あくまでリスクを趣味として考えられる場合のみ。私は自分のメインのバイオリンをオークションで手に入れようとなんてとても怖くて考えられないです。
なので基本的にネットで遊ぶバイオリンと、楽器屋さんとしっかり向き合って選ぶバイオリンは全く別のものかなとも思っています。
また似たような売買に個人売買があります。
私の知人の高い非常に良いイタリアの楽器を持たれていたご家族が亡くなられたのですが、ご葬儀から間も無くその故人の師匠であった先生が楽器の行方を訪ねて連絡をして来られたことがあるそうです。
もしご家族誰も楽器をお弾きにならず楽器屋さんに売ろうとすると、半値以下での引き取りをお願いするしかなかったでしょう。
一方、先生がもし次の引き手の方を仲介されれば、楽器屋さんにお引き取りいただくより高い値段で手放せますし、楽器を仲介で入手されるその先生の生徒さんも、より安く良い楽器が手に入れられたことでしょう。なので双方にメリットのある話になるんだと思います。当然ながらは、先生はその生徒であった故人の方の楽器の素性はよくお分かりです。
その方はご自分で楽器を弾かれるので、亡くなられた家族の愛機を引き継ぎ、その楽器はイタリアの某有名製作家の楽器だったこともあり価格は倍以上になっているそうです。
こうやって考え、自分の現在の愛機であるジャックマンを眺めたときに、”そーかお前の実際の価値は4割なんだ”とか、”自分が死んだ後、この楽器は誰かに引き継げるのかな”とか少し複雑な気持ちになりました。
私のジャックマンは手に入れて約30年になります。
たまに有名楽器店のネット販売に出ている価格を見ると30年たっても、値段倍には上がっていないなーって感じです。選んでくれた師匠も、このクラスのものの値段は下がることはないけど上がることはないからって常々おっしゃってました。まさにその通りになっている感じ。
でも買った楽器屋のご主人は、結構値段上がって来てて、もう同じ値段では買えないとも言ってました。
実際の価値ってどのくらいなんだろう。ちょっと確かめて見たい。
でも、同じ作者のもので、出来によって価格はバラバラ、楽器の売買って本当に難しい世界ですもんね。正直よくわからない世界ですね。
以上売買編のまとめとしては、
新作を除けば、中古としての流通がほとんどバイオリンは、自分が買った値段と、実際に自分が売れる値段には結構な差がある
それゆえ、楽器購入を投資として考えることは、一部の需要が供給を上回っている楽器以外は難しい(中古フェラーリは投資になるかもしれないが普通のベンツの中古車は無理)
なので、極めて高価なものを覗くと、ヴァイオリンは投資とあまり考えない方が良い。買値と下取り値段の差は、演奏する人間からすれば利用料。月々に見合った利用料の楽器を買うのが良いかも。
でした。
次は、楽器が時空を超えて生き残り、名器の仲間入りできるかを考えたいと思います。
バイオリンの経済学3 名器への道は厳しい - 音と風の生活(ネットで楽しむバイオリン)
中古フェラーリとストラドは意外なところで共通点が、、、