音と風の生活(ネットで楽しむバイオリン)

久しぶりにバイオリン始めました。ネットで買ったり、いじったり楽しくやっていきます。

バイオリンの経済学3 名器への道は厳しい

ちょっと間が空きましたが3回目となるバイオリンの経済学。前回はバイオリンの売買の時の経済性の話を少しやりました。

 

前々回の記事:バイオリンの経済学 その1:バイオリンが生まれるとき

https://kamisamacool.hatenablog.com/entry/2020/04/14/080904

 

前回の記事 バイオリンの経済学 その2:バイオリンの経済学 その2 楽器が買われるとき、売られるとき

https://blog.hatena.ne.jp/kamisamacool/kamisamacool.hatenablog.com/edit?entry=26006613491138265

 

この時の目線というか、主語は我々という見方でのステップアップを考えたんですが、今回は全く逆にバイオリンを主語にして考えて見たいと思います。

 

それは今ある楽器が時空を超えて名器の道を歩めるかどうかという話です。

 

この話を考え出したのは、私の初号機をどうしようかという話になった時です。私の初号機は1970年代に父が東ドイツから持って帰った大量生産品の楽器です。近くの工房に見てもらったらおそらく戦前頃の作で、比較的よくできているものの、板厚が5mmくらいありあまりなりそうもないとのこと。また、表板にヒビが入っていてとりあえず貼り合わせられるものの、いつかは本格的な修理が必要とのことでした。

 

楽器って表板にヒビが入ってても大丈夫?って方いらっしゃると思いますが、表板は全く問題ないっていうのが通説のようです。というよりストラドなど見ても表板にヒビのないものはほとんど内容です。むしろ大事なのは裏板で、こっちにヒビがあると結構な修理になるそうな。

 

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一号機のヒビ

 

これらをきちんと直すには一旦バイオリンの表板を開けて裏からパッチを当てる必要がありバスバーにヒビが引っかかっているのでそれも取り替え、かつしっかりと演奏に答えられるように鳴る楽器にするためには表板を削る必要があるというのが最終的な見立てでした。

 

問題はそのお値段で、だいたい一言20万円以上、、、、そーです、楽器一台買えるやんって話になっちゃうんですよね。まじかーと思っていくつかの工房さんのサイトを見てもやっぱり作業内容的にそれくらいかかっちゃうようです。

確かに、職人さんが修理にかける必要な時間を考えればそうなのかもしれません。

 

悩ましいのは、もし初号機は私がこの大改造の投資をしなければ、あえてこの楽器を弾こうって人もいないでしょうし、また楽器屋さんが引き取ってくれるとはとても思えないことです。そりゃそーですよね。表板にヒビがある楽器なんてバイオリン屋さんで見たことないですし。

 

でもそーなると、このバイオリンは1900年初期のものでも、いずれ燃えるゴミと化してしまうしかないんですよね。なんまいだ。

 

実際私はこのバイオリンを弾くことはもうほとんどありません。綺麗な音をだすバイオリンですが、全く鳴らないですし、音を出すには相当力もいるので今の私には実践向きではないです。

 

でも、この楽器を買った父にとっては東ドイツの出張の時に現地の楽器屋で手に入れて、飛行機で持って帰ってきた想い出の品のようで燃えるゴミにするのもちょっと心が痛みます。

 

さて、、、、

 

実は、この修理問題が名器として生き残れるかどうかの、バイオリンのサバイバルの分かれ目なんですね。バイオリンは古くなるとどうしてもヒビが入ったり、ネックが傾いたり大きな数十万円単位の修理が必要となります。でも、我々がお店で見るバイオリンは普通数十万円。ってことはバイオリンの値段が100万円を超えるような見込みがなければ、修理される可能性は低いってことです。(また、修理される前のバイオリンは結構二束三文の値段ってことにもなります。)

 

反対に買う人の視点に立つと100万円を超えるバイオリンって、楽器店に行ってもショーケースにもほとんど入っておらず奥から取り出し来る部類の超高級品ですよね。初心者が買うことはほとんどないでしょう。

 

なので、この修理の費用を乗り越えられる素性があるかどうかがバイオリンにとって大きな運命の分かれ目ということになるみたいです。

 

これって、地方レースで勝ち続けないと生きていけない競走馬によく似ていると思った次第です。有名な製作家の楽器は生まれた時から将来は安泰なのかもしれませんが、まだ駆け出しや無名の作家による楽器、特に大量生産のものは、長い時の流れの中では厳しい運命が待っていますね。